こんにちは
以前にNHK BS で放送のあった「奇跡のレッスン▽フィギュアスケート ハビエル・フェルナンデス」についてお話したいと思います。
「奇跡のレッスン」という番組は世界の最強コーチと言われる人を呼んで、子供たちにレッスンをする、という番組なのですが、今回は、とりわけ神回でした。
なぜか、途中から涙が出てきてしょうがなかったのですが、そのくらい素敵なレッスンだったのです。その涙の理由を考えてみたいと思いました。
さて、私は日本語教師を目指しているのですが、日本語教師は日本語を教える仕事ではありますが、一方である意味インストラクターやコーチというべき存在で、学習者自身がいかに自分でモチベーションを持って取り組んでいくかを手助けするという立場でもあるので、そういう観点からも興味をもって見ていました。
舞台は青森のスケートリンク。通年のリンクではないため決して整った環境ではありません。そのリンクでフィギュアスケートを練習する小中学生にハビエルが指導をすることになりました。このレッスンの最後には練習してきた各人のプログラムの発表会を行うのです。
リンクでは子供たちが淡々とルーティンのステップをこなしています。ただ淡々とまさに作業をこなしているようにも見えます。ついで、ジャンプ練習に入ります。限られた時間なので、効率的にどんどん練習しないと時間が取れないようです。
それを見ていたハビエルがすかさず、「まずもっと基礎練習をしよう」と言います。土台のないところにビルは建てられない、というわけです。フォア・クロス、バック・クロスを行い、そのこつを教えます。子供たちは、「これまでこんなに基礎練習はしていなかった」と言います。
次にジャンプの練習を行います。中になかなかジャンプの踏切りができず、躊躇してしまう男の子がいます。「失敗を恐れてはいけないよ。僕は何度もころんでそこから学んだんだ。思い切りチャレンジして、ころんだときのほうが学べることはたくさんある」とハビエルは言います。
プログラムの音掛け練習に移りました。子供たちは自分の音楽が鳴っているにもかかわらず、そのプログラムを全く無表情に演技しているように見えます。ハビエルは、自らの代名詞とも言える、「セビリアの理髪師」のプログラムをジャンプなしで演じて見せます。
ユーモラスに楽しく表情やしぐさを演じ分けて滑ります。それを見ていた子供たちの目は次第にとてもキラキラしてきました。
プログラムの音楽を楽しい音楽や悲しい曲に変えて、同じステップで滑ってもらいます。そうすると、子供たちはその音楽を表現しようと顔つきが変わってきます。楽しい曲は笑顔を見せて、悲しい曲はちょっと深刻そうに。
子供たちの表情がどんどん変わってくるのでした。
ある時、子供たちの親やコーチと一緒に懇親会が開かれました。ハビエルは言います。「どれだけの犠牲をはらって頑張っても、フィギュアスケートでトップにいけるのは本当にひとにぎりの人だけなんだ。でも、スケートが好きだという気持ちをあきらめることはないよね。好きなことに努力をすることは結果よりも大切だと思うんだ。幸せになろう、努力をしよう。そして、自分が願う自分になろう」
どうして、彼はこんな言葉が出てくるのだろうかと思います。彼のことばを聞いて、親もコーチも泣いています。思うところがいっぱいあるんだと思います。
1週間のレッスンの締めくくりは発表会です。子供たちがコスチュームを着て出てきます。どの子も生き生きとした表情をしていて、最初とは見違えるようです。
何が子供たちのマインドをこうまでも変えたのでしょうか。
ハビエルがいいます。「ジャンプが跳べたとか跳べなかったとか、そんなことは道端の小石みたいなものだよ。主人公は君なんだ」
すごい表現です。みんな一生懸命ジャンプを練習しているんだけれども、それも結局はそのときの条件でうまくいくこともあれば、ダメなときもあります。でも、そこで頑張っている主役は君なのだ、と言います。
「ジャンプはうまくいく日もあればうまくいかない日もある。でも、君の笑顔の美しさは永遠だよ」
あー、こんなことがなんてさらっと言えてしまうんだ。恐るべきラテン男。これは日本人にはムリゲーですね。
それにしても、内からあふれる優しさが誠実なことばとなって子供たちに伝わったんだと思います。
日本語を教える上でもこんな素敵なコーチを目指したいものです。
今回はここまでです。